雛

弥生三月。相変わらず寒い。けれども道端には沈丁花が咲いている。
実家の父が、今ではもう飾られなくなった私の雛人形を突然飾りたくなったらしく
一人で雛人形を出して飾っていたというのを母から聞いた。
それで思い出したのが芥川龍之介の『雛』
初めて読んだ二十歳くらいの頃でも物凄く良い話だったっていう印象が残っていたので、今回読み返してみたのだけど
若輩ながら人の親となった今読み返したら更にじんわりする話だった。

河童 (集英社文庫)

河童 (集英社文庫)


余談だけども『雛』は集英社文庫版の『河童』に収録されていてそれで読むのがオススメだ。
『河童』をはじめ芥川のぼんやりとした不安へ突き進むプロセスがじわじわ感じられる短編ばっかり入っている。
そんな中で『雛』は異色を放っているのだけど。


先日は娘の初節句を迎えた。
まだ何も解らない新生児なのでどうということもなく
実家の親に贈ってもらった雛を一人で飾った程度なのだけど
ああこれから毎年この娘と雛を飾ったりするのだなあと感慨深く思った。
この先、桃の節句が来るたびに
産後クタクタの体に鞭打って極寒の中浅草橋まで行った時の事。
それでも無理して自分で選んでよかったなって思い出すんだろうな。
老朽した雛を飾ってみたくなった父の気持ちが分からなくもない。
自分にとってなんとも無かった行事が特別なものに変わった。
それは桃の節句だけじゃなくて他にも色々増えていくのだろう。