卵の緒
瀬尾まいこ『卵の緒』
現存する作家の作品を読むときに思うことのひとつとして、自分と近いか遠いかってことがあって。もちろん立場だとか生活レベルとかそういうんじゃなく。イメージの世界だったらどんな荒野に立ってるかっていうような。余りに抽象的な感覚の問題だけども。*1自分と同じ荒野にもがいているなぁっていう理由で好きな作家も居れば、自分と同じ荒野に火を放って出て行くような作家も居る。で、この瀬尾さんはすごく遠いところにある荒野にいる。憧れの地に、何かを突っぱねたり撥ね付けることもなく穏やかにすっくと立っているイメージ。なんなんだろうなぁこの寛大な感じっていうのか。
どこまで行っても多分誰といても独りは一人なのだけれども、それでも人と関わりあっていくという根底のほのかな勇気と覚悟と姿勢に憧れているんだと思う。自分は。単純に血や戸籍のつながりや男女の恋愛以外のところの関わりというか。そのくせちっともベタベタしてなくて、ほら、やっぱり姿勢がよいのだ。
デビュー作のこの『卵の緒』では美味しいものを好きな人と一緒に食べるっていうのがキーでもあり、ハンバーグとにんじんケーキが印象的に出てくる。これには参ってしまった。一人暮らしの御飯が適当になっていくのも多分美味しいという気持ちも言葉をも分かち合えないからなんだろうなぁ。よくないなぁ。

*1:私は作家なり画家なり何か創作する人というのは荒野に立っているものだと思っている