前略あなたへ。

『黒い時計の旅』スティーヴ・エリクソン(ISBN:4560071500)
この本は、かつて福武書店から刊行されていて
文庫にまでなっていたものの
福武書店じたいがあんなことになってしまったので
不運にも絶版の憂き目にあっていた本です。
20世紀最大のパラレル小説であり
個人的主観でいえば、末期の枕の隣に置きたい本でもあります。


5,6年前だったでしょうか?
ネットで知り合った人から紹介されて読んでみた本で
その時点で絶版になっていたものなので
私は図書館で借りて読んだのです。
心はわしづかみ。
物語の世界観。そして柴田元幸の訳。
あーもう、多分こんな凄い本に出会うことは無いだろうな。とその時点で思ったことは
2005年の今も変わっておりません。
どんな話?と言われても
二次大戦でドイツが負けなかった話だよ。としかいえない。
フィリップ・K・ディックの『高い城の男』よりも著しくパワフルな。


その後、何度か図書館で借りては再読を繰り返し
復刊ドットコムに投票するも、未だ復刊活動まで70票もかかる状態で
古本屋に行けば探す日々を続けていたのですが
突然白水uブックスから刊行されていたのです、先月。
万歳万歳万歳!有難う白水社!


今、この本を教えてくれた人とのやり取りは全く無くて
ネットだけでやり取りしているという間柄の悲しさはあります。
連絡がなくなればそれまでで、深追いするほどの立場にいない自分の小ささを知ります。
それでも
紹介していただいた本が世の中に存在し
そしてそれに胸を熱くする人間がいることの価値がある。
些細なメールのやりとりがなかったら
わたしという頑なな人間は
逆立ちしてもアメリカ現代文学なんて読まなかっただろうと思うので
あなたのメールのおかげで
再刊された『黒い時計の旅』を書店で見つけて狂喜した今日の私がいるのです。


どうもありがとう
些細な関係と20世紀の偉大な作品に。


あ、あとブローディガン『アメリカの鱒釣り』なんかが新潮文庫で出ていて2度ビックリ。
また絶版にされるまえに買っておくことにしましょう。