夜更け、大島弓子、炬燵

大島弓子の『いちご物語』を突然再読したくなる。
しかし悲しいかな家には無い。
私にとって大島弓子の漫画というのは
突然読み返したくなる時期がくるものであり
そしてオオシマユミコと思い浮かべる時
いろんな意味で心がチクっとするものなのだ。


大島弓子が好きだという男性が、私の周りには割と多い。
24年組という少女漫画黄金期の群像に触れたら、大島弓子にめぐり合うのは水が高きから低きに流れるがごとくに当然のことだ。
ここ数年では若手作家のリスペクトの影響で大島弓子にめぐり会う人も多いだろうけれど。
でもそれで大島弓子にはまるか、というとこれまた別の話で、一度手にとってみたものの拒絶反応を起こす人もいる。
手に取った作品が70年代だったか80年代だったかによっても印象は大きく影響するだろう。


冒頭の、私の周りの大島弓子好きな男の人たち。
女の私でさえ、あの思春期エキセントリックさ加減に食傷気味になることもあるので
そういう人に出会うと
なんで好きなの?
どこが好きなの?
と、私は必ず聞くようにしている。
皆それぞれの熱い思い入れとかフェミ発言などを聞くのが、楽しい。
ひとつ非常に印象的だった『思い入れ』
その知人は、かつて、不倫相手の彼女の部屋に夜立ち寄って
彼女の部屋にあった大島作品を読んで、好きになったのだと云う。
大島作品と不倫。
なんてこの不似合いな感覚。
大島作品の登場人物はきっと不倫はしない。
自由恋愛を推奨する、というようなちょっと変わった子は出てくるかもしれないけれど
彼ら彼女らもきっと不倫はしない。
全部読んだわけじゃなから断言はできないけど。


もし私が男だったら
大島弓子が好きというような女の子とつきあいたくはない。ましてや不倫をや。
それはさておき。
不倫相手の部屋で大島弓子のどの作品を読んだのだろう?
大島弓子を読んで、どう思ったのだろう?
「クラッカーがあったんだよおとうさん」で泣いたりしたのかしら?
「ミルクをおのみ、心がなごむよ」とか言ったりしたのかしら?
何も詳しくは聞かなかったけれども
夜更けの彼女の部屋にはきっと炬燵があって
そこは、しんしんという音がぴったりするような静かな場所で
湿度があって濃密、それでいてとっても脆い粒子が満ちていたに違いない。
なんてことを想像してみた。
そう考えると合わなくもないような。