プールサイド小景とちょっと彼方への手紙


前略。
去年の夏は、もの凄く遠くになってしまったよ。


1年以上カメラの中に入れっぱなしにしてあったフィルムを現像してみたら、去年の夏が、ぼんやりと、でも鮮やかに、まるでまるでまるで、去年のわたし達に波紋と衝撃とシズカな熱情を起した展覧会の『終わらない夏』のように、印画紙にはあったのです。



参っちゃうな。
あの日、暑い日、ああそうだ、夏じゃなかったんだ。
ちょうど今時分、梅雨に入ろうかという6月の日。
目黒川沿いをボンヤリと歩いて、そして公園の中の区立美術館で
わたしは『終わらない夏』を観た。小林孝亘の個展。
君が時折考えるように、わたしも、未だにあの時の個展のことを考えることがあるのです。
そして考える時はいつも、あの夏の、否、
何度も言うけど夏じゃないんだけど、夏の感じ、しかも切なくセンチメンタルな夏
の感じにココロが持っていかれるのです。
本当に、あのまま夏が終わってないんじゃないかと思うくらい。


夏を送ります。
同封したのは、あの展覧会に行く途中の公園で写したもの。
営業前の、掃除もままならぬ、プールサイド、夏前。
まるで死体のように目を瞑った
プールサイドか海辺に横たわっていたあの人物画たち。
いつか、目をあけることがあるのでしょうか?


いま目黒区美術館のコレクション展で、小林氏の作品が展示されている模様です。
新作かどうかは分からないけれども、
わたしはまた、目黒川沿いを歩いてあそこに向かおうと思っています。


振り返り振り返り
終わらない去年の夏のことばかり言いましたが、今年の夏はこれからです。
お身体に気をつけて、また。


酔い覚ましに珈琲をすすりながら。
草々頓首。